薪活で玉砕
近くの河川敷で薪の無料配布があるという情報を得て、来年用の薪活を開始した。薪は1年以上乾かさないと使えないので、今から用意しないと来年使えない。軽井沢のときは敷地内の木を伐採してそれを使ったが、ここには伐るような木がない。配布される木は2mにカットしてあるというが、その原木を私ひとりで運べるのか、どのくらいの量があって、どの程度の人がもらいにくるのかもわからないけれど、ものは試しと初日の朝イチで乗り込むべく作業用の服やロープなどを車に積んで用意しておいた。
が、あいにく朝方まで小雨が降っており、迷ったあげくに天気が回復した昼ごろに出発したものだから、すでに残りわずかになっており、まだ山ができている奥のほうには車の行列ができていた。
当たり前だけど、みんな二人組だ。チェンソーを持ち込んでその場で運べる長さに切っている人たちもいる。早い者勝ちの争奪戦的な空気感に、はやばやと敗北を決めたのだけど、せっかく来たのだから1本くらいはおみやげを持って帰ろうと、行列してないほうに車を停める。シャカシャカの作業服を着て、車の近くまでズルズル引っ張る。腰に負担がかかるのを感じたので、痛めないようバンダを意識して、よしなんとか車に乗せられた。
ただ、長さ的に運転席のほうまで飛び出してしまったので、2本目は短めの木を選んだ。短いけど太いのでさすがに重たいが、運べないことはない。転がそうとしたが、枝がボコボコ出ていて転がらない。じわじわと時間をかけて運ぶ。車の手前までもう少しというところで、最後ぐいっと引っ張った。
パコっ!
腰がはっきりと音を立てて崩れた。
ああ、やっつまった。
さっきまであんなに気をつけてたのに......。
これが世に言うギックリ腰か。
立てるし、歩けるけど、もしかして数時間後に動けなくなるかもしれない。さすがに青ざめて、少し気を落ち着かせる。激痛ではないので、とりあえず車に積んで帰ろう......と思ったそのとき、同じエリアで作業していた八ヶ岳ガール(イメージ)がさっと来て一緒に積み込んでくれた。なんてスマートで、ありがたいヘルプなんだろう。戦々恐々だったのはまわりの空気ではなく、私自身だったのではないか。自分の思い込みで余裕がなく、勝手に空気に飲まれただけなのではないか。
それもこれも、いい勉強になった。
腰が逝ってしまったのでゲームオーバー......なのだけど、車が行列しているほうにある木が気になって見に行くと、軽く一人で運べる木(カスってことね)が目についたので、戦場をすりぬける子どものように運ぶ。往生際が悪いというか未練がましいけれど、敗北者のあがきで3本ゲットして、おしまいにした。
どこかで「これで3週間分だ」という声が聞こえた。私のはせいぜい3日分。勇んで行ったのに玉砕だ。でも、行かなかったら何もわからないし、延期してたら1本も残っていなかっただろう。今年はこれでよしとしよう。(来年リベンジする気か?)
運転しているとお腹が痛いような気がした。たぶんどこかの組織が損傷されて神経に触っているのだろう。アルニカ携行してたかなと農産物直売所に車を停めて気づいたが、ポーチどころかお財布の入ったバッグ自体を持ってこなかった。電子マネーで買い物はできたけれど。
いったん家に戻って漢方の在庫を確認する。確かギックリ腰に効く芍薬甘草湯を買っておいたはず。煎じ薬も買ってあったが、すぐに飲めるエキス剤をお湯に溶かして飲み、腰の血行促進のため葛根湯も飲んでおく。翌日からは血流をうながす煎じ薬を飲んでいる。人生初ギックリが、またしても漢方の臨床実習経験になった。
さて、次にやるべきは温泉だ。一般には急性は冷やせと言われるけれど、感覚的にも漢方的にも、この場合はあっためて血流を促したほうがいい。
温泉に行く前に積んだ原木を下ろす。追い討ちをかけるような気もしたが、明日動けなくなるやもしれぬので、腰に負担をかけないようにしてなんとか下ろした。
その後温泉でじっくりあたためたら、鈍い痛みもだいぶ楽になり、ふつうに仰向けでぐっすり寝られて、悪化する気配はなし。最悪のシナリオは避けられたようだ。マイソールクラスの指導があったらアジャストメントに一部支障が出ただろうけど、薪作務などの重労働以外には日常生活に支障はない。特定の姿勢で違和感が出るが、痛みの出ない身体の使い方でなんとか対処している。
それにしても、「お金で解決しない生活」のたいへんさは、こういうところにある。お金払って薪を買ったり、そもそも薪ストーブを使わなければケガのリスクはないからね。たいへんなのを承知でやっているわけだけど、こういう生活は家族ないしは共同体でするものだとつくづく思う。都会暮らしなら、おひとりさまでも支障はないけれど、原始的な暮らしは助け合いのもとに成り立つ。還暦になってそんなことを思い知らされた1日だった。ケガや病気は致命的で、ここでの暮らしがいつまで続けられることやら......。
教訓:
「好事魔多し」
「調子に乗ってんじゃねーよ」
