禅の旅始末記
6月2日の12時に現地集合となった今回の禅の旅。私は当日の朝4時前に出発する予定で、前日はオンラインマイソールが終わったあと、冷蔵庫の残り物を片付けて食べ、応量器の刷(せつ)に布を縫いつけたりしながら、のんびりと出かける前の準備を始めていた。
天気予報をチェックすると、ちょうど集合時間ごろから降水量21ミリの大雨予報が出ている。当日の予定が変更になりそうなので、参加者にその旨を伝えるメールを入れた。
昼ごろに再び天気予報を見ると、北杜市では雨の降り始める時間がずっと早くなっていて、福井は警報級の大雨予報になっている。これは明日の朝出発したら時間までに着けないかもしれない。かといって夜中に走るには怖すぎる道(あらゆる意味で)だ。
今すぐ出発するしかない!
そこから猛ダッシュで出かける支度をした。なにせ、1週間家を空けるのでやることが多すぎる。汚くして出かけたら、帰ってきたときが怖いので(虫とか)、最低限の掃除や片付けを済ませ、着替えや冷蔵庫に入っているものを適当にカゴに放り込んで、さっき干したばかりの洗濯物を車の中に広げてとりあえず家を出た。
順調に行けば、20時ごろには着くだろうと思ったのが、途中高速で分岐を間違えて、天龍寺に着いたのは21時半ごろ。迷走しているうちに雨が降り出し、やがて土砂降りになり、真っ暗な闇に稲妻が光るなか、薄気味悪いダムの山道を走り続けたので、神経が過剰に興奮して、目が開けていられないほど疲れているのに全然眠れない。上で寝ていた尼僧さんがトイレに下りてきたとき、寝ぼけ状態でへんなことを口走って驚かせてしまった。
と、大雨警報を知らせる防災無線がすごい音量で鳴り、時計を見ると1時。起きて天気予報を見たりして、ほとんど寝られず。これがずっと尾を引いたのか、その後ずっと、安泰寺での摂心も、とにかく異様に眠かった。
結果的には福井には被害をもたらすような大雨はなく、いちばん激しく降ったのは暗くなって恐ろしい山道を走っているときだったが、無理をしてでも前日に着いていてよかった。
というのも、2日の午後から北陸本線が運休したので、もし午前中自分が運転していたら、メールのやりとりすらもままならないばかりか、なんの対応もできず混乱したに違いない。幸いにも運休する直前の電車で無事参加者が福井入りできて、定刻どおりに禅の旅が始まった。
めでたしめでたし。
といって終わりにしたくなるくらい、始まるまでが大騒ぎ。スタート後は、越前蕎麦も、永平寺も、温泉も全部予定どおりの完璧な進行となった。

摂心では参加者全員が優等生すぎて、住職が驚いていた。2時間半ぶっ通しで坐りっぱなしとかあり得ない......どこまでまじめ?と私もびっくり。そんなよくできた参加者たちと楽しい時を共有できた6年ぶりの禅の旅であった。
最終日は参加者2名を福井駅まで送り、3人の乗った禅ワゴンは鳥取に近い兵庫県にある安泰寺を目指して出発。時折り見える日本海の美しい景色を眺めながら、初めての山陰路を満喫した。ローカルな駅でパート2からの参加者と合流し、ローカルな食堂でお昼を食べ、温泉に入ってから安泰寺へ。
今までたくさんの田舎を見たけれど、安泰寺までの道は想像を絶する狭さだった。下は崖なのにガードレールもなく、切り返しをしないと曲がれないようなカーブが続くヒヤヒヤ道。相当の覚悟がないとここまでは来られないことは容易に想像できる。
安泰寺に着いて、堂頭(住職)さんからガイダンスを受けてまたびっくり。摂心は45分坐禅ののち15分経行(歩く坐禅)を繰り返すと聞いていたが、トイレも経行中に済ませるようにとのこと。たいていは経行のあとにトイレ休憩の時間があるので、ちょっと外の空気を吸ったり、立ってストレッチをしたりするくらいはできるのだけど、まったくその時間がない。それが16時から21時までの5ラウンド続く。
さらには、坐禅中は動くなと。脚が痛くなったら、それを観察せよとのこと。天龍寺で脚を組み替えていいかとの質問に星覚さんがOKと答えていたのと真逆だ。
初めての山陰に旅気分が上がり、ランチに海の幸、風呂上がりにアイスまで食べてうかれていたちゃみこさんの気がキューっと引き締まった。
もひとつ、摂心中は無言でと。これは私としては当たり前なのだが、これまでの摂心では周りの人たちが普通に会話をしていたので、ひとりで沈黙を貫くこともできずにいた。そう考えれば、これぞ理想の摂心ではないか。
翌朝も4時から9時まで5ラウンド坐り、朝粥。本来は10時から15時までまた坐るのだと思うが、この日は得度式(出家の儀式)があるので12時で終了になり、CHAZEN一行も得度式に参列させていただいた。めったにない貴重な機会であるばかりか、出家する人の初々しいお袈裟の着け方にグッときたりして、厳しい摂心とは打って変わって、あたたかさを感じるよい式だった。
その後は、得度祝いのピザパーティ!
薪で焼く本格的なピザ窯があるのだ(下の写真左)。あまり戦力にならないけれど、私たちもお手伝い。

緑の映える屋外でパーティが始まる。口数が少ないせいか、最初ちょっとコワいと思われた修行者たちは、意外にもみなさん穏やかでやさしく、誠実な人ばかり。

私たちは堂頭さん(女性)の話に聞き入り、また安泰寺の人たちは星覚さんの話に聞き入り、あっという間に夜が更けた。
翌朝は摂心明けの休日で、坐禅も朝のおつとめもなし。ヨガを教えてほしいとのリクエストをいただき、1時間のショートバージョンで坐禅に効くポーズや太陽礼拝のクラスを二人のデモンストレーター付きで開講。少しはお返しができたかな。

ほんとうに得難い経験をさせてもらった。何より、みなさんの真摯な生き方、修行生活との向き合い方に打たれた。もしかすると、初めて永平寺に行ったときのインパクトに匹敵するかもしれない。

そんなわけで、嵐の予告から始まった禅の旅は感激の嵐にて終了した。
道元禅師の教えそのままに気高い雰囲気をもつ永平寺とその教えに忠実に修行道場を提供してくださる天龍寺のすばらしさ、そして、その型にははまらず、けれども同じように厳しく道を参究している安泰寺を連続で体験できた幸せを思う。
もはや禅慣れしてしまって緊張感に欠ける私は、なんの特別な期待もしていなかっただけに、安泰寺との出会いが新鮮で眩しすぎて......。
それもこれも、星覚さんの存在と、CHAZENの禅に参加してくださるみなさまのおかげ。10年近く続けられたからこそ得られるこの機会であり、この感動なのだと思う。地道にオンライン坐禅会を続けていきたい。
参加者を鳥取空港で下ろしたあとも、成り行きまかせの旅が続いたが、こちらの始末記はまたの機会に。