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星覚さん一家来たる

糸島の星覚さんファミリーが日本全国を大移動中、空庵に滞在された。立ち寄ってくださいとは言ったものの、宿泊されることは想定外だった。


軽井沢の分校だったら広々してたけど、この狭苦しい空間に子ども5人ってどうすりゃいいんだ? 寝る場所はなんとかなるだろうけど、ごはんは何を作ればよいのだ?


星覚さんからは「なんでもありがたくいただきます」との模範回答しか得られず、それならと、ちょうど先日来たゲストに好評だったメニューを作ることにした(手抜きか)。ナスの煮浸しとか、作って冷蔵庫に入れておくだけで味がしみておいしくなるからね。


ふだん何を食べているかわからないが、「なんでもよい」というくらいだから、地味なおかずでもいけるかもと思ったのだが、やはり子どもたちには不評で、典座さん大慌て。親がいくら諭しても、子どもの口に戸は立てられないものだ。


大急ぎで卵焼きを作り、ミニトマトを洗って出したら、それは飛ぶようになくなった。


そうか、いかに星覚家といえども、コドモは黄色とか赤とか見た目が鮮やかなものが好きなんだ。経験的においしさの情報をインプットしているオトナと違って、コドモは視覚でおいしさの情報を判断するのかもしれない。


そもそも、ここ数年私は来客には敢えて侘び飯を出すことにしているのだが、お子様に侘び寂びの風情が通じないのは当然であった。


それで、翌朝はグリーンリーフを敷き詰めた上に、トマトとツナのマリネ、その上にお花を描くようにゆで卵を飾りつけたサラダを作ったら、起きてきた子どもたちが見るなり「わー、おいしそー!」と。


しめしめ、思ったとおりだ(ガッツポーズ)。


それにしても、子どものエネルギーはすごい。車の中でも座ってないし、車を降りた瞬間から石の上を裸足で遊びまわってるし、家に入った瞬間から「もういーかい?」とかくれんぼを始める。親が荷物を下ろしている間に、もう家じゅうを探検し終わっていた。


探検が終了するや「なんか遊ぶものある? おもちゃとか、ぬりえとか、ゲームとか」。


うわっ。ごはんの支度に気を取られて、遊び道具のことなどまったく考えてなかったよ。トランプはあったような気がするけど、えーっとどこにしまったかな......。


オロオロしていると、間髪を入れずに「おえかきしたい!」


はいはい、色鉛筆ならあるよ。うーんと、あとは紙だ。なんかあったかなーと戸棚をひっくり返したら、いつかのワークショップで使った模造紙があった。オンラインクラスになったから、もう使うこともあるまい。


ふう、かろうじてミッションひとつクリア。


やがて引き出しをチェックしたら、トランプ発見。水滸伝の人物が描かれていて、長い間もったいなくて使わなかったものだが、ようやく日の目を見るときがきたようだ。おかげで子どもたちは飽きもせず神経衰弱に興じていた。トランプを天井に向かって投げて雨にしたり、ズルしたのしないので絶叫したりと大騒ぎするさまは、まさにコドモ! これぞコドモ!



電池の切れる気配すらない子どもたちに対して、はじめ自身が温泉に行きたいと言っていたお父さんは、食事後サンドマンがやってきて目がショボショボ。3時起きで鳥取から運転してきたのだからお疲れは無理もない。結局子どもたちに温泉をあきらめるよう説得する展開になっていた。


ところで、てっきりお留守番なのかと思ったハチが同乗していたのはサプライズだった。大忙しの人間たちにかまってもらえずとも、おとなしく外につながれていたが、暑い車内での長旅でストレスがかかっているようだったので、夕方と早朝散歩に連れ出した。犬の散歩なんて久しぶりだなー。


ハチくん引っ張る引っ張る。シューのリードを使ったのだけど、ぐいぐい好き勝手に動くので力で制御せねばならぬ。あとで聞いたことには、ふだん長いロープで好きに走らせてるのだそうな。星覚家は子どもも犬もワイルドに育っている。


頼む、じっとしていてくれ

この日は早朝からよく晴れて、山々がとてもうつくしかったので、みんなにも散歩を勧めた。おかげでハチは3回も朝の散歩に行けて「よかったわん」とよろこんでいた。華奢なお母さんにはアップダウンがキツかったようだけど。


晴れてはいても冬にくらべると空がぼんやり霞んでいる。そして、甲斐駒ヶ岳も雪を抱いているほうがシャープで、より「らしさ」が出るような気がした。それでも、運よくこの風景を見てもらえてよかった。こればっかりは努力して見せられるものじゃないからね。


1匹だけ遠くに見えた八木家のヤギヤギに手を振る

ハチが来てくれたおかげで、冷凍庫に入ったままだったシューちゃんのドッグフードも捨てずに済んで、シューの遺品も大方は片づいた。シューちゃんグッズとともに少しずつシュー着も手放せているような気がする。手放したいような、手放したくないような、だけどね。


それはそうと、兄弟が多いっていい。この子たちはきっと大人になっても仲がいいのだろうな。それに、今どきのコドモって、行儀はいいけれど「飼い慣らされている」感じがすることもあるから、この子たちくらい自由でいいんだなと思う。少なくとも、人の顔色窺うような(かわいそうな)コドモよりずっといい。


その自由さ、のびのびした感じは、こないだ長門牧場で見たじゃれ合う牛たちを彷彿とさせた。


牛歩ということばがあるくらいノロノロでもっさりしてるイメージだったけど、牛もじゃれ合って遊ぶんだって初めて知った。こんな広々とした大地と空の下なら、牛だってスキップしたり、追いかけっこしたくなるものなのだ。


実に愉快そうな牛さんたちであった

嵐のような1日だったが、子どもたちが帰ってしばらくすると、また来ないかなと考えていた。これぞ絶好の学びの機会であり、プラクティスの場であった。どう考えてどう行動すれば、自分にも相手にも負担が少なくなるかということの。


ストレスを増やすのも減らすのも、自分次第だからね。


(タイトルは円覚寺管長日記のマネっこです)

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