寒冷休暇の読書日記
10年に一度の寒波とやらが来るというので、不謹慎ながらちょっとワクワクしていた。大量の薪など準備して16時ごろおこもり体制に入る。少し雪が舞ってきた。ヒガラが数羽、寒そうに飛び回っている。早くねぐらへ帰ってあったまりな、と言ってロールスクリーンを下ろした。
数分後。
ゴーっという風の音にスクリーンを上げると、そこは猛吹雪の雪山に転換していた。よくできたお芝居のようだ。すでに気温はマイナス5℃だけれど、外気の影響をまだ受けていない室内は、薪ストーブの熱でぬくぬくしている。
ワクワクしていたのは、冬ごもりの読書三昧のもくろみがあったから。この数ヶ月間まともに本が読めなかった。今月になってようやく北杜市の図書館に登録し、平常運転に戻った実感はしたものの、昼間は何かと忙しく、夜はすぐ眠くなるので、腰を落ち着けて本を読む時間がとれずにいたのだ。
吹雪はまもなく収まり、大きな薪をくべてから寝たので翌朝も意外とあたたかかった。大々的な宣伝のおかげで、読みかけやナナメ読みも含めて数冊の本を読み、映画を1本観るというしあわせな「寒冷休暇」を過ごすことができた。
東京では、読みたい本をピックアップして図書館に予約していたが、麓の図書館は小さいので、棚に並んでいる本を興味のおもむくまま「片っ端から」読むことにした。以下、そのうちのいくつかを紹介してみる。
『スーパーカブ』角川コミックス・エース刊
館内の目のつくところにディスプレイされていたコミック本。当地はこの物語の舞台らしく、あちこちでポスターやグッズを見かける。マンガとアニメのことをさっぱり知らないので、どういう話か気になりさっそく読んでみた。
親のいないひとりぼっちの女子高生がある日スーパーカブを手に入れ、同じくカブに乗っているクラスメイトと友達になり......というあり得ない設定に「それがマンガじゃないか」とひとりツッコミ、でもけっこうおもしろい。しかし、スーパーカブといったら、蕎麦屋が出前に使うバイクだ。そのゴツいバイクに、制服のまままたがってるJKって......今は現実的にアリなのか?
というのも、40年前、私はカブに乗っていた。JKじゃなくてJDだったけど、スーパーカブに乗っていたことがあるのだ。最初はバイト先の板前さんが、通勤用に貸してくれたのだった(のちにはジムニーを借りて乗り回していたこともある)。それを見たうちの父が、朝晩の送り迎えをしなくて済むよう安い中古のカブを買ってきたのだった。
しかし、当時の私は、このアニメの主人公とは違って、カブに乗るのがモーレツに恥ずかしかった。当時カブに乗っているのはおじさんしかいなかったから、JDの私は恥ずかしかったのだ(あのころはまだ女子だった)。エンジンがセルではなくキックだったり、ギアがあったりするのはちょっと新鮮で楽しくもあったけど。そんなことを思い出していた。
それはともかく、その設定のおもしろさとか、何より実在の地名やお店などが出てくるので地元民はそれも含めて楽しめる。ウェブサイトを見てみたら、ムービーの最初が空庵の最寄駅である日野春駅だった。
空庵ステイのとき、1時間に2本くらいしかない各停に乗り換えるのは不便だろうと送迎駅を小淵沢か韮崎としていたけれど、日野春まで来てローカル線に乗る醍醐味を味わうのもいいかも。聖地巡礼も可能。
『マイ仏教』みうらじゅん 新潮新書刊
「見仏記」などで知られる仏像マニアのみうらじゅん。山田五郎のYouTubeチャンネルで仏像トークがめっちゃおもしろかったので借りてみた。怪獣好きから仏像にのめり込んだ小学生時代のエピソードがあの才能を暗示している。そして、ふざけているようでいて実は仏教への理解も的を外していない。というか、そこらのお坊さんの説法よりよっぽど本質をついている。笑いながら仏教に親しみたい人には一読の価値あり。
ちなみにこの動画もおもしろい。
『禅が教えてくれる美しい人をつくる「所作」の基本』枡野俊明 幻冬舎刊
大きな本屋さんに行くと、禅(仏教)のコーナーには、曹洞宗のお坊さんであり、庭園デザイナーでもあるこの著者の本がずらりと並んでいる。この手の話は星覚さんの本で事足りているため、私はほとんど読んだことないが、麓の図書館で出会ったご縁で一読したところ、わかりやすい禅の本であることは確か。サンガのみなさんにおススメしたくなった(のが、この記事を書くきっかけ)。
私が禅を語ると、どうしてもマニアックな好みが表に出てしまい、クラスメイトに仏像愛を語ってドン引きされる小学生のみうらじゅんのようになってしまうのだが、こういう本なら特にヨガをなさっている女性には興味をもって禅に親しんでもらえるような気がする。これからは私もスマートに禅を語りたい......。
『「老子」新訳―名のない領域からの声』加島 祥造 地湧社刊
最近たまたま加島さんの名前を目にしていたので、ご縁を感じて手に取ってみると、話し言葉で書かれた老子の道徳経がすらすらと入ってきた。タオイストである訳者の好みもあるのだと思うが、今の私の生き方に通じるものがあって新発見だった。空庵の生活はヨガと禅とタオでできているのかも。そういえば、陰ヨガはそもそもタオヨガであった。漢方とも通じるものがあるので、タオイズムをもう少し研究してみよう。以前タオにアプローチしたことがあるけど、あまり入ってこなかった。今が「そのとき」なのかもしれない。
『更に古くて素敵なクラシック・レコードたち』村上春樹 文藝春秋刊
「更に」というからには続編なのだろうが、「更に」のつかない元本の存在を知らなかった。村の図書館のありがたさよ。東京の図書館だったら、予約の順番待ちで棚に並ぶのは数年後だったろう。30代まではあまり聴くことのなかったクラシック音楽だけど、今聴くのはほとんどクラシック。それもバッハのアルバムのうち気に入っている5種類くらいをひたすらリピートして聴いているので、別の演奏者のものや、別の作曲家のものを開拓したいと思いつつ、あとまわしにしていた。これはレコードの本だから、デジタルで入手できないものもあるとは思うが、手がかりとしてはかなり役に立つ。願わくはアナログレコードで聴いてみたいものだけれど。
映画についてはまた改めて(まだ書く気かよ)。
