おもてなす
6月ごろから、どうにも髪が伸びすぎていることが気になっていた。世の中薄毛で悩む人が多いというのに、私は濃い毛で悩んでいる。性格そのままの頑固で曲がらない毛髪は、まとめようにも重くて落ちてきてしまうのだ。バレッタは毛髪力でバッコーンと弾き返すわ、束ねたゴムはすぐにブヨブヨになるわ。7月に入って暑さも加わり、毎日連獅子の舞の稽古をしているような頭の重さに耐えかねていたところ、専属ヘアスタイリストさんが髪を切りにやってきてくれた。
ありがたや。ありがたや。こんな集落限界の山奥まで出張してくれるとは......。
かくして、ついに連獅子の苦行が終わり、暑苦しさが解消され、シャンプーもドライも楽になったのであった。
せめて心ばかり精一杯のおもてなしをしようと、ひたすらご飯を作ってお出しする。結果的に外食ゼロ。田舎のおばあちゃんちに来たみたいなステイになった。もちろん、CHAZEN流の素朴な(粗末な)献立だけど、夏野菜オンパレードで侘び飯よりはおかずアイテムが多め。素材力のおかげですべてがおいしすぎて、食べ終わってもしばらく動けないほど食べた。
とりわけ、スイーツに疎い私がめずらしく作った薬膳スイーツ「緑豆白玉ぜんざい」が大好評で、薬膳カフェ空庵は大成功。(......なんて、実は白玉なんて作ったことないから、あやうくボロッボロの白玉になりそうなところをゲストに助けていただいてなんとか成功したのだが)
さて、今回いただいたリクエストは「滝に行きたい&長い時間坐れるようになりたい」。
印象深かったのは坐禅。
ちょうどオンラインの呼吸〜瞑想クラスがあって、瞑想としてのシャヴァーサナを終えたところで、おやつの桃をむき始めてから「そうだ、今坐ろう」と思いついた。せっかく瞑想モードになったのが、おやつを食べてしまったらだいなしだ。E嬢に頼んで神楽坂で買ってきてもらったお香で1炷。最初落ち着かないようだったけれど、後半持ち直して完遂した。
翌朝は、朝が苦手系のS嬢が自主的に5時前に起きてきたのにびっくり。そして、これまた30分の坐禅を静かなまま成し遂げた。脚が痛くて立てないということもなく、動いたり船を漕ぐこともなく坐れていた。ちゃんと、確実に、坐れるカラダに変化しているではないか。もちろん、誰でもコンディションは毎回違うから、ぜんぜんダメなときもあるだろうけれど、ベースはできたとみてよい。「長く坐れない」のは、できないと思い込んでいるか、やらないかのどちらかなのだ。毎回でなくてもいいから、長めに坐ることが習慣になれば、徐々に脚の痛みを感じる頻度も少なくなっていく。
ということで、リクエストのひとつは達成。
お次はアシュタンガの練習、そして土いじりもしたいとのことだったので草刈りと続く。空庵の庭は小さいので、道路脇の笹を刈ってもらった。とてもきれいになった(その分とてもハードだった)。
朝ごはんを食べてから、いよいよ滝へ。私がいつも歩いている尾白川渓谷ではなく、軽装で行ける精進ヶ滝へ向かった。
クマ避け鈴をチリンチリンと鳴らしながら歩く。
もはや滝慣れしてしまっている私とは違い、S嬢は水に、流れに、風景に感激している。
精進ヶ滝までの間に、一の滝、二の滝、三の滝がある。

しかし、吊り橋とか高所が苦手なS嬢は、限界ギリギリだったのだそう。その気持ちを想像できない私は、どんどん先に行ってしまっていたらしい。

今回私が目を留めたのは、小さな名もない滝。

登ったり下ったりが激しい尾白川渓谷と違って、途中急な階段とか歩きにくいところはあるものの、高低差も少なく総じて楽に歩ける(私の感覚では)。ほどなくして精進ヶ滝の滝見台に到着。昔、修行者が打たれていたことから精進ヶ滝と名づけられたそうな。

ということで、もひとつのリクエストも達成。S嬢、限界ギリギリでもよくがんばった。
限界はチャレンジしない限り超えられない。怖い、無理といって試さなかったら、それは一生怖くて無理なのだ。
そして、人にはそれぞれのペースがあるし、チャレンジするタイミングもそれぞれ。無理をする必要はない。プラクティスを続けるうちに試練が与えられる機会がめぐってくるので、その時が来たらそれを突破せよ。
それがアシュタンガのシステムでもある。ひとつずつクリアしていった先に新たなチャレンジが待っているという......。
大人になってもそうやって人間として成長していけるのはすばらしいことだと思う。これはヨガでも仏教でもないけれど、自分を変革していくという意味では大いに意義のあることだと私は思っている。
目的を果たし、大満足で帰ってきたところで、突然私の電池が切れてしまい、その後のお出かけを変更し、ごろごろしたり、お昼をつくって食べたりしてまったりと過ごした。夏は想像以上に疲労するものだ。
最後は道の駅のやまじおソフトで〆て、おもてなし終了。
アタマ軽く、ココロも軽く、よき夏の二日間であった。